【漫画】人間の愛と狂気を極限まで描いた不朽の名作『狂四郎2030』は超オススメ!

ネットサーフィンをしていると頻繁に目にするカレーの画像

🧒えっ 今日は全員カレーライス食っていいのか!!

👨ああ…しっかり食え

👨ただ今より毒ガス訓練を開始する!!

 

今回はこの画像の元ネタである徳弘正也の大傑作、『狂四郎2030』をご紹介します。

漫画オタクの人もそうでない人も全員必読の超名作なので、ぜひ一度手に取ってみてください。

狂四郎2030 あらすじ

時は西暦2030年

第3次世界大戦後の荒廃した日本では優生学思想を背景とした独裁政治が横行。男女は完全に隔離され徹底的な管理社会に移行していた。

一般人は農園で死ぬまで奴隷労働を強いられ、特権階級だけが裕福な暮らしを謳歌する世界。

そんな中、辺境の地で治安警察をしていた主人公の狂四郎はバーチャルマシンを介して本来であれば決して出会わない生身の女性、ユリカと邂逅する

ネットのバーチャル空間を通じて互いに惹かれ合う狂四郎とユリカ。

想いを抑えられなくなった狂四郎は国家反逆者として追われることを承知で、ユリカのいる北海道の中央政府を目指し命がけの旅を始めた・・・

この作品の魅力を語り出したらキリがないが、一番は人間の「表」と「裏」、「善」と「悪」、「愛」と「狂気」といった誰もが持つ二面性をこれでもかというほど徹底的に描き切っている点にある。

狂四郎2030の魅力1.絶望的なほど残酷な世界、底知れぬ人間の狂気

ディストピア漫画の極致

ディストピアをテーマにした創作物は星の数ほどあるが狂四郎2030は別格。

こと漫画に限っていえば本作の右に出るディストピア作品はないだろう。

狂四郎2030の世界は全権委任法の成立によって独裁政党が牛耳るようになった近未来の日本。

そこでは差別と弾圧が平然と横行し、一般人は農園で死ぬまで働かされる世界が広がっている。

そんな地獄のような世の中であるにも関わらず、人々は政府によるプロパガンダや支給されたバーチャルマシンで一時の仮想現実に耽ることで、もはや現世が地獄であることすら忘れてしまう始末。

どこかの偉人が「本当の地獄とは地獄であることを認識できない世の中である」みたいな趣旨の言葉を残していたような気がするが、狂四郎2030はそれを見事に体現している。

農場自体が救いの無い地獄であることを人々がそもそも認識できない状態はまさにディストピアと呼ぶにふさわしい世界である。

この無慈悲すぎる世界観が徳弘正也の癖のある絵と完璧にマッチしており、読者を物語の世界にグイグイと引き込む。臨場感が半端ない。

 

本作の連載期間は1997年~2003年と今から20年以上も昔だが、古臭さは全く感じさせない。

それどころか、現実世界におけるVR技術の登場・最近流行りのメタバースなどを考えると、世の中はどんどん生身の異性から離れ、バーチャルの性に溺れる世界に近づいているようにすら感じる。

あくまでフィクションの世界でありながら、狂四郎2030の世界は私たち生きる現実世界と地続きになっているようにも感じられ、他人事とは思えない。

本当に予見的な漫画だ。

一切の慈悲がない、残酷すぎる世界観

ディストピアと関連して、狂四郎2030の物語はとにかく残酷。

※ここでいう残酷というのは、ホラー映画にあるようなスプラッター描写というより登場人物の内面や物語の展開の方の話

狂四郎2030ではそんな残酷描写が嫌になるほど丁寧に描かれている。

本作の舞台、2030年の日本では倫理や道徳といった社会通念がまるで通用しない。

権力者が「殺す」といったら容赦なく殺され、男たちに囲まれた女は容赦なく犯されるのみ。

一切の慈悲がなく、弱者はただなすすべもなく嬲り殺されるだけ。そこに救いは―――ない。

それはメインキャラでさえ例外ではなく、ヒロインであるユリカは作中で何度も何度も酷い目にあう。

通常の作品であれば間一髪のところでヒーローが駆けつけ難を逃れるようなシーンでも、ご都合展開は無し。ヒーローは現れません。

本当に一切の慈悲が無い。

残酷な世界を作っているのがトップの権力者や一部の悪人たちだけではなく、市井の市民までもがその世界に加担しているという希望自体が存在しない世界。

ディストピアが好きな人にはたまらない。

戦争による人間の狂気

戦争モノの作品といえば人間の狂気が欠かないが、狂四郎2030もその例に漏れず常軌を逸した描写がこれでもかというほど描かれている。

戦争によって人間が狂ってしまったのか、戦争が人間の元々持っていた狂気を呼び起こしたのか――

それまで普通だと思っていた社会が独裁政党に支配され、全体主義に染まりすっかり様変わりしてしまう様子には恐怖を覚える。

本作にはM型遺伝子理論なる学説が登場する。

これ自体は単なる遺伝子に関する学説なのだが、権力者はこれを拡大解釈して都合よく国民を支配するためのツールとして利用。

M型遺伝子と判明した者は国家反逆病を発症する恐れのあるキャリアとして、容赦ない差別と偏見に晒される。

 

 

本作にはこういった容赦ない差別や狂気に満ちた描写がこれでもかというほど描かれていて、読んでいて本当にうんざりする。気が滅入る。

冒頭で挙げたカレーの話などはまだマシなほうで、全20巻の中にはそれを遥かに超える胸糞エピソードが沢山出てくる。

「狂四郎2030は読むのがしんどい 疲れる」という感想をどこかで見たが本当にその通りだと思う。

かくいう自分も、このレビューを書くために10年数年ぶりに本作を読み返したが、精神的にドッと疲れた。

遺伝子による差別、密告制度、異常なまでの全体主義など・・・

作者の徳弘正也は1959年の戦後生まれですが、どうしてここまで前時代における人間の暗部を生々しく克明に描けるのか、本当に不思議だ。

狂四郎2030の魅力2.あまりにも純粋でまっすぐすぎる狂四郎とユリカの愛

本作は主人公の狂四郎がヒロインのユリカと会うために北海道を目指して旅をする、いわゆるロードムービー的な作品だ。

旅は困難を極め、追手を毎日のように切り倒す狂四郎は自分のような血塗られた人間が果たしてユリカに相応しいのか自問自答する日々を繰り返す。

一方のユリカもユリカで、北海道の中央政府電子管理センターに勤務するだけかと思いきや、様々なトラブルに巻き込まれ精神面だけでなく、物理的に何度も酷い目に逢う。

男女平等パンチ(やりすぎ)

ユリカに逢いたい、という一心で阿修羅の如く敵を倒し続ける狂四郎と、どんな酷い目に逢おうが心折れず狂四郎を待つユリカ。

地獄のような世界・・・ではなく文字通り地獄で何度も悲惨な目に逢いながらも、相手のことを想い必死で自我を保とうとする狂四郎とユリカ。

二人の関係はもはや「愛」とか「信頼」とかそういう月並みな言葉では言い表せないほど濃密で、読んでるこっちが泣きそうになる。

スイカに塩を振るとスイカの甘味がより引き立つのと同じように、あまりにも悲惨で救いの無い世界だからこそ、2人の純愛がより際立って読者の心に響く。

狂四郎2030の作中内で描かれる残酷で狂気的な描写は目を覆いたくなるくらい酷いもので陰鬱である。

しかし本作はそれだけでなく、同時に狂四郎とユリカが想い合うプラトニックな描写も大変素晴らしく、本当に溜息が出る程だ。

これほどまで人間の二面性、善と悪を濃密に描いている漫画を自分は他に知らない。

その他 狂四郎2030の見どころ

喜怒哀楽を極限まで突き詰めたキャラクターの表情

徳弘正也は人間に対する解像度がとても高く、それはキャラクターの表情に現れている。

昨今は読者の読解力低下を懸念してか、登場人物の心情をセリフや心の声として描いてしまう作品が増えている。

狂四郎2030はそういう風潮とは全く無縁。

キャラクターの表情が生き生きと紙面に反映されていて、そこから喜怒哀楽なんていう単純な言葉では語り尽くせないほど、人間の複雑で高度な感情・想いが描かれている。

ユリカと会っているときの狂四郎と殺人マシーンとして生きているときの狂四郎は同じキャラクターなのに、表情が違うだけで本当に別人かのような印象を受けゾっとする。

 

余談だが、『ワンピース』の作者である尾田栄一郎は徳弘正也の下でアシスタントをしていた時期があり、徳弘正也の圧倒的な表情力は後のワンピースにも大きな影響を与えたと言われている。

徳弘正也の画風とぴったりハマった狂四郎2030の世界観

狂四郎2030はキャラクターの表情だけでなく、その「絵」自体も非常に魅力的で、読者を強烈に惹きつけるものがある。

前作、『ジャングルの王者ターちゃん』も面白い作品ではあったが、「絵」から強烈な魅力を感じる訳ではなかった。

それは連載当時の作者の画力の問題もあるが、一番の理由は恐らく徳弘正也の画風がターちゃんの漫画内では十分に活かせていなかった点にあると思われる。

一方、少年誌の枷から解放された狂四郎2030ではその世界観が人間のサガを描き切れる徳弘正也の画風と完全にマッチしていて、とても見ごたえのある作品に仕上がった。

徳弘正也の得意とする汗、涙、埃、独特の汚さといった要素が狂四郎2030の世界観には完璧にハマった。

アクションシーンも殺陣を中心に余白の使い方や見せ方がバツグンに上手く、いちいち痺れる。

アクションシーンが上手い漫画化といえば鳥山明や皆川亮二が有名だが、徳弘正也も負けていない。

鳥山明のアクションシーンが動いているとすれば、徳弘正也のアクションシーンは止め絵が多く中には完全に止まっているようなものもある。

アクションシーンなのに静止画、というのはよく考えればおかしな話である。矛盾している。

それなのに違和感なく読者が一目で状況を理解できるのは、おそらく重心や間接の動き、筋肉のねじれといった人体構造をしっかり描けているからこそだろう。

徳弘正也はボディビルが趣味なようなので、その影響なのかもしれない。

シリアスシーンでも唐突に挟まれるギャグ描写

狂四郎2030では、ほのぼのシーンだけでなく超シリアスなシーンでさえ唐突にギャグシーンをぶっこんでくることで有名だ。

しかしギャグはサッと1コマで終わらせるので話のリズムは崩れず、緊張感も途切れない。

これはもはや天賦の才かというくらい、ギャグの挟み方が自然で違和感がない。

 

このギャグシーンは好みが分かれる部分だと思うが、ギャグを定期的に挟まないとあまりにも陰鬱で読むのがしんどい漫画になっていただろうことは容易に想像できる。

煽り文では近未来SF冒険SEXYバイオレンスラブロマンスせんずりコメディちんこ漫画と描かれており、作者の徳弘正也も本作の厳しすぎる世界観を必死にギャグで弛緩させようとしている様子が伺える。

ギャグが無ければ読者が付いてこれず、完結前に打ち切りになっていたかもしれない。

そのため連載漫画として掲載し続けためにギャグシーンはアリだったように思える。

狂四郎2030 まとめ

物凄く深い愛を描いた作品は沢山ある。底知れぬ狂気を描いた作品も沢山ある。

しかし、その二つを一つの物語に同居させ破綻することなく極めて高いレベルで昇華させた作品となると中々お目にかかれない。

戦争の狂気、人間の愛、差別と偏見、善悪の二面性、マインドコントロール、全体主義の恐怖、安きに流れる人間の弱さ、VR技術が示す未来などなど・・・

ヒューマニズムの極致をいく本作はとにかく骨太で濃密。まさに人間賛歌。

この作品は言うまでもなく戦前のナチスドイツや大日本帝国を下敷きにしている。

それらをモチーフにしたディストピア作品なら山ほどあるが、優性遺伝論といういつの時代も変わらない人間の業を主軸に描いているので古臭さは全く感じさせず、読むと毎回新しい発見がある。

また、狂気に満ちていてひたすら残酷な世界だからこそ、狂四郎とユリカの愛がより輝いて見える。

内容が内容なので読むのにすごく体力が必要である。

絵柄も癖があり、エログロなんでもアリなのでハッキリいって読者を選ぶ。

しかし、ハマる人はものすごくハマる漫画で一度読みだしたらページを捲る手が止まらなくなる。

恐らく当レビューをここまで読んきた人なら間違いなく本作は”刺さる”ので、気になった人はぜひ一度手に取ってみてください。

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コメント

  1. A より:

    ヒロインが
    主人公(=読んでるヲタク)用の
    都合のいい性欲ロボットにしか見えません。
    珍しい絵柄の自慰萌え漫画ですね。

  2. B より:

    絵がうますぎて痺れます
    今でも古さを感じさせない素晴らしい作品です
    ご紹介いただいてありがとうございます
    狂四郎2030を読んだ後の余韻が続き、
    勢いで徳弘正也先生のもっこり半兵衛を全巻買ってしまいました笑