「格闘漫画のような熱さで大食いを描く」──これほど奇抜でありながら、読者の心を掴んで離さないテーマがあるだろうか?
今回ご紹介するのは料理・グルメ漫画を数多く手がけ、このジャンルでいえば日本でもトップクラスを誇る土山しげるの代表作『喰いしん坊!』
ジャンル的には大食い漫画に分類されるが、その本質は週刊少年ジャンプで連載してもおかしくない超王道のバトル漫画だ。
連載は2004年から2009年まで「週刊漫画ゴラク」で行われ、全24巻という中規模ながらも、強烈なインパクトを残した。
アニメ化したら間違いなく色々な意味で伝説を残すこと間違いなしの本作だが、大食いバトルというジャンル故に今となってはそれも難しい。
そのためマイナー誌かつ連載終了したこの漫画を手に取るのは何かの偶然でもなければ叶わないかもしれない。
たまたま本レビューに辿り着いてくれた人が一人でも多く喰いしん坊!の魅力に気付いてもらえたら幸いだ。
Contents
喰いしん坊! あらすじ
食べることが大好きな普通のサラリーマン、大原満太郎はある日ひょんなことから大食いの世界に足を踏み入れる。
その過程で綺麗な食べ方(正道喰い)を良しとする大食い団体『TFF』と、勝つためなら汚い食べ方(邪道喰い)や時には犯罪も平然と行う大食い団体『OKFF』という二つの団体と関わりながら、大食いの道を極めるべく奮闘する・・・
というものだ。
その様子はまさに昭和のプロレス団体や00年代の格闘技ブームを彷彿とさせるものがあり、当時を知っている者なら本作を読んで熱くなるなという方が無理だろう(余談:作中でもそれらを参考にK1(喰い1)グランプリなる大会まで開催している。)
本作は少年漫画的な王道展開に加え、優れた演出、見やすいコマ割り、癖の無い絵柄、適度なセリフ量、テンポ良く進むストーリーなど・・
とにかく全体的なバランスが良く、一つの漫画作品として見たとき、とても綺麗に良く纏まっている たまに「は?」と言いたくなる糞展開もあるが、それはご愛嬌
そのため連続して長時間読み続けても全く疲労感はなく、週末の土日にイッキ読みする漫画としてはピッタリだ
ここではそんな『喰いしん坊!』の魅力を3つに分けて語りたい。なお、記事の都合上、ネタバレも多少含まれるのでそこはご容赦願いたい
喰いしん坊!の魅力1.アツすぎる王道展開
いつの時代もアツい王道展開は好かれるもの
本作もその例に漏れず、最初はただのサラリーマンだった主人公がコテコテな悪役の罠にハメられ完敗→修行を経て成長し、過去の宿敵に打ち勝つなどカタルシスたっぷりな構成になっている。
掲載されているのが漫画ゴラクであるためいまいち知名度が低くマイナー感は否めないが、やっていることは完全に週刊少年ジャンプである
また、「大阪に潜入させました」「敵に寝返るとは・・・」「修行に出て半年…」など、このページだけを見たら一体どこのバトル漫画ですか?と誤解してしまいそうだ。
ちなみに、修行編になってからの満太郎はそれまでのお調子者っぽいサラリーマンから一変。
襟足を伸ばして冷静沈着な強者の雰囲気を漂わせ、見た目もスーパードクターKのようになる。
喰いしん坊!の魅力2.インパクト抜群な邪道喰い
本作を語る上で絶対に欠かせないのが作中度々登場する邪道喰いの存在だ
邪道喰いとは、料理を水に浸したり、ミキサーにかけたりして素早く胃に流し込む食べ方のことである。
料理に対するリスペクトを欠くことから、主人公たちTFF側の人間はこれを嫌悪しており、逆に悪のOKFF側はこれを躊躇なく行う。
土山しげる氏の漫画力も相まって、邪道喰いは白黒漫画であるにも関わらずかなりのインパクトがある

ングッ ングッ ・・・ダン!

邪道喰いの極み・・・!!
この2人以外にもOKFFには
- うな茶の参四郎
- 万力の政
- スッポンのオクレ
- マジック坂田
- 極道喰いのきよし
などなど…個性あふれる悪役キャラが沢山所属しており、とにかくネタに事欠かない。
喰いしん坊!の魅力3.冷静になって見ると笑えてしまう滑稽な描写
本作は大食いに人生をかけた食闘士(フードファイター)たちが己の意地とプライドを駆けてフードバトルに挑むシリアスな漫画・・・
のはずなのだが、冷静に見ると思わずぷっwと吹いてしまう描写で溢れている。
大原満太郎
まず主人公の満太郎。いくら敵キャラの卑劣な罠にハマって悔しい思いをしたからいって、それで会社を辞めて大食いの旅に出るというのはいくら何でも突拍子すぎる。
しかも旅の途中の所持金はたった30万円
本作の描写を見る限り、大食いチャレンジの賞金は数千円から一万円が多いようなので飲食・宿泊・交通費を考えると1か月も経たず貯金は底を尽きそうである。
また、邪道喰いは許せない、と言いつつも物語終盤ではどう見ても邪道食いでしかない食べ方でピンチを乗り切っているのも突っ込みを入れずにはいられない。
(画像追加予定)
ハンター錠二
ウェスタンルックとサングラスがトレードマークの男で、主人公の師匠・目指すべき憧れ的なポディションも務める
本編開始時点で大食いを「本業」にしている唯一の人物で、各地イベントの報酬や大食いの賞金をメインの収入源としていることから「賞金稼ぎ」という意味で「ハンター」を名乗っているらしい。
圧倒的な存在感を放ち、作中においても誰もが認める最強キャラとして君臨している。また、錠二は食に対する哲学をもってフードバトルに挑んでいる。
しかし真面目であるが故に、錠二の行動は他のキャラと比べてより一層滑稽に見えてしまう。
特に序盤の二刀流のシーンなんかは笑わずスルーできる人がいるだろうか

これで笑うなというのは無理がある
ちなみに、ハンター錠二として活動する姿は作中内でも笑われている
(画像)
冷静に考えると意味不明な描写
まずはこちらをご覧いただきたい。
見開きのインパクトと迫力で思わず圧倒されそうだが、冷静に考えるとこれで食べるスピードが速くなるわけではない
むしろ画像2に至っては意味もなく首を振るためどう考えても普通に食べた方が早い
このように本作は大食い漫画のエンタメとして面白さに加え、突っ込みどころ満載で面白おかしくて笑えるという意味で二度おいしい。
突っ込みどころ満載で面白おかしい、という意味では喰いしん坊は現在も連載中の『彼岸島』や『タフ』を上回っており、個人的には『夜王』に並ぶレベルだと思っている。
漫画好きなら喰いしん坊!は読んで絶対に損はない
本作は掲載紙が『漫画ゴラク』ということもあって、キャラクターがあまりに空想科学寄りになってないのが良い。
また、押さえるべきところはキッチリ押さえて、漫画としての面白さもきちんと提供してくれる。
その一方で、見た目も職業もあくまで一般人である登場人物たちが、ことフードバトルに限ってだけは何故かトンチキな行動をするので、それが笑いのツボも刺激する。
孤独のグルメのような「ふむふむ」という面白さではなく、シンプルに少年漫画が持つ「ワクワク」感が喰いしん坊にはある。
その勢いたるや、一度読み始めると止まらなくなる。
コメント