競争激しい週刊少年ジャンプの世界では毎週のように不人気漫画がバッサバッサ打ち切られています。
それは過去に人気連載を持っていた作者も例外ではなく、『みどりのマキバオー』で一世を風靡したあの“つの丸”も連載を打ち切られたことがあります。
その漫画が今回ご紹介するサバイビーです。
打ち切り漫画をなんで紹介するの?と思われるかもれませんが、理由は簡単。
この漫画がズバ抜けて面白いからです。
本作は数あるジャンプ打ち切り漫画の中でも屈指の人気を誇り、全3巻という短編作品でありながら読者に絶大なインパクトを与え、今なお人々の記憶に残り続ける隠れた名作です。
今回はそんなつの丸の昆虫漫画『サバイビー』をご紹介します。
Contents
サバイビー 第一話のあらすじ
長雨で家族や仲間を失ったミツバチのバズーは、同じ境遇の虫仲間たちと一緒に気ままな暮らしをしていた。
ある日、バズーがいつものように森を飛び回っていると負傷したミツバチを発見。
上空にスズメバチの大群が飛び交う中、そのミツバチはバズーに謎の物体「オーダイ」を託し、スズメバチの大群の中に消えていった。
「オーダイ」を抱え住み家に帰るバズー。
そこでバズーは虫仲間たちからバズーの仲間であるミツバチたちはスズメバチの大群によって殺されたという衝撃の過去を伝えられる。
バズーは虫仲間たちと共にミツバチの生き残りを探し、ミツバチ王国の再建を計画する。
しかしそこに1匹のスズメバチが突如現れ、仲間達は全員惨殺されてしまう。
悲しみに暮れる間もなく、バズーは「オーダイ」を持って一人でミツバチの生き残りを探す旅を始めた…
サバイビーのここが凄い!!!
ギャグ系漫画家と思われていたつの丸が描く超シリアスな世界
つの丸といえば世間一般ではアニメみどりのマキバオーのせいでコミカルなギャグ漫画家としての印象を持たれがちです。
しかしサバイビーは全く違います。
そこに描かれているのは種としての生存をかけた生きるか死ぬか純度100%の殺し合い
完全ガチの超シリアスな世界です。
1話目からいきなり主人公の仲間たちが全員惨殺されるというショッキングすぎる幕開けは物語の掴みとしては最高です。
そんな超シリアスな漫画を1999年の読者が子どもばかりの週刊少年ジャンプで、それもネタ系漫画家としての印象が強いつの丸が描いているわけですから。
当時ジャンプを読んでいた人であれば本作の衝撃は今も覚えている方が多いでしょう。
自分も「つの丸ってそういう感じの漫画も描く人だったの!?」と、ビックリしました。
最初はみなしごハッチのパロディ作品か何かだと思っていたのに実際はガンバの冒険を超シリアスにしたような作品で驚きました。一体どうしてこうなった…
シリアスな漫画は世間に溢れていますが、ギャグ系の漫画家が突然シリアスものを描くとそのギャップも相まって読者へ与えるインパクトは絶大。
端的にいって最高です。
ただただひたすら冷酷無比で残忍なスズメバチの存在
本作は主人公のバズー(ミツバチ)を始めとした各種昆虫キャラクターはコミカルに擬人化され人間のような二足歩行をして普通に会話もします。
一方、敵キャラクターであるスズメバチは昆虫の造形をそのままに純粋に“スズメバチ”として描かれています。
本作を名作たらしめている最大の理由はまさにココにあります。
構想段階の時点でスズメバチを主人公たちと同じように擬人化し、言葉を発する悪役キャラにすることもできたはずです。
むしろ週刊少年ジャンプという掲載媒体を考えればそっちの方が遥かに自然でしょう。
しかし『サバイビー』ではあえてそれをせず、スズメバチをそのままスズメバチとして描きました。
昆虫はペットの犬や猫、鳥のような感情表現をしません。というか感情があるかどうかも分からないそうです。
そしてスズメバチの恐ろしさはジャンプを読むような子どもにも十分認知されています。
そう、スズメバチという昆虫は元から恐ろしすぎるので悪役キャラとして申し分なく、わざわざ漫画向けにデフォルメしたり、言葉を持たせる必要がないわけです。
”何を考えているか分からず対話不能で狙った獲物は容赦なく殺す残虐さ”
昆虫だけが持つこのおぞましさは哺乳類や鳥類では決して出せません。
生き物同士が戦う作品だと上で挙げた『ガンバの冒険』や『銀牙-流れ星 銀-』あたりが有名です。
そしてあちらには強大な敵としてイタチのノロイやヒグマの赤カブトが出てきます。
しかしノロイにせよ赤カブトにせよ、人間と同じ哺乳類なので感情表現がまだ多少はあります。
ところが、『サバイビー』のスズメバチはそういったものは殆どありません。
姿形こそは生き物(昆虫)ですが、本作のスズメバチが読者に与える印象は生き物というよりプログラムで動く殺戮マシーンといった方が近いでしょう。
それはまるでターミネータのような恐ろしい印象を与えます。
この敵キャラクターとして魅力的すぎるスズメバチをそのまま作品に出し、擬人化した昆虫たちが必死に抗うという物語は令和の今の時代であれば受け入れられるでしょう。
しかし、1999年の週刊少年ジャンプでやるにはあまりにも早すぎる、まさに時代を先取りしすぎた作品でした。
アツすぎるミツバチたちの行動原理
サバイビーはあくまで昆虫たちの物語なので人間は一度も出てきません。
そのためミツバチVSスズメバチの戦争に勧善懲悪という視点は皆無で、そこで繰り広げられるのは種の存続をかけた純粋な殺し合い、絶滅戦争です。
ミツバチは人間ではないので修行をしたり強力な武器を手にしてスズメバチを打ち負かすというお約束の展開も一切無し。
主人公のバズーも最初から最後まで一人では全くスズメバチに対抗できず、終盤はほとんど気力と精神力だけでスズメバチに立ち向かいます。
それは他のミツバチたちも同様です。ミツバチの寿命は1か月程度なので、次々と命を投げうってオオスズメバチに向かいます。
死期を悟り特攻するミツバチの姿などは涙無しには語れません。
ミツバチたちは次々と死んでいきますが、次世代に臨みを託すという確固たる意志があるので決して安っぽくなく、チープなお涙頂戴劇にならないのが凄い。
この辺の全体の利益のためなら自分の命を投げうってでも戦うという姿は後の進撃の巨人なんかを彷彿とさせ、読者の胸を熱くさせます。
サバイビーは打ち切りだけど間違いなく名作だった
サバイビー連載当時の1999年はまだジャンプの読者も大多数が少年でした。
そのため、あまりにシリアスで重い本作が受け入れられず、打ち切りされてしまったのも理解はできます。
しかし、理不尽なまでに強すぎる敵との対峙、冷酷無比で救いが無い展開、一致団結して困難に抗う姿などは後に大ヒットする『進撃の巨人』にも共通する要素です。
本作はもし掲載誌が違ったり、連載する時代がもう少し遅かったりすれば間違いなく人気作品になるだけのポテンシャルを秘めていた漫画です。
上でも書きましたがサバイビーは時代を先取りしすぎていました。
現在のようにジャンプの平均読者年齢がアラサーくらいであれば本作も問題なく受け入れられていたと思います。
打ち切り漫画というとイメージは悪いですが、根っこの部分は友情・努力・勝利の王道ジャンプ漫画。
主人公バズーが知恵と勇気と仲間たちの助けを借りてスズメバチに立ち向かう姿は20年以上たった今見ても十分通用する内容です。
全3巻という短さでこれほど読者を熱く滾らせる漫画を自分は他に知りません。
打ち切りとはいえ3巻終了時点で話は綺麗にまとまっているので、未読の方はぜひ一度手に取ってみてください。
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